機械系のエンジニアがよく使う鉄鋼材について半導体装置製造歴10年以上のゆとり課長が簡単にわかりやすく解説していきます。
鉄鋼とは
鉄鋼と聞いて、みなさんどんなイメージをお持ちでしょうか。
「てつ?はがね?ポケモン?錬金術?くろがねコミュニケイション…」
と感じた方はゆとり確定です。
鉄鋼とは「鉄」と「2%以下の炭素」を含んだ素材として定義されていますが、見た目で判断する時は「重くてなんとなく硬そうなもの」を鉄鋼材として見なしましょう。(適当ですみません)
工業機械で使用する材料の大部分は鉄鋼材が占めているので、ものづくりでは一番お世話になる材料となりますよ。
ちなみの鉄と鋼の違いについて気になる方多いようですが、炭素の含有量の違いにあります。
純粋な鉄(純鉄)だけだと結構脆かったりするので、ちょっと炭素をいれて機械的に丈夫にしました的なノリで誕生したのが鋼となりますよ。
したがって、身の回りで鉄だと思っていた材料のほとんどが、厳密に言うと鋼だったりする訳です。
鉄鋼材の種類
「鉄鋼材ってどんな特性があるの?」
「どんな時にどんな鉄鋼材がベストなの?」
設計や製造をしていると、このような材料に関しての疑問が生じますよね。
鉄鋼にも種類はいっぱいあって、それぞれ特性が変わってきますよ。
ではどんな種類があるのでしょうか。
鉄鋼は大きく分けて3つ
- 炭素鋼
- 合金鋼
- 鋳鉄
に分けられます。
ここでは、使用頻度の高い鋼鉄材をピックアップし、種類別にそれぞれ解説していきますよ。
種類別に特性を知って、鋼鉄材を上手く使い分けていきましょう。
炭素鋼
炭素鋼は、鉄と炭素の合金であり、炭素の含有量が0.02%〜2.14%までの鉄鋼材を指します。
炭素の他にも5大元素といって
- ケイ素
- リン
- マンガン
- 硫黄
- 銅
を含んでいますよ。
炭素が多く含まれているほど、鋼材の硬度が上がる一方で靭性(粘り強さ)が減少する傾向があるため理解しておきましょう。
それでは一般的によく使用される代表的な炭素鋼の種類を4つ紹介していきますね。
SPC(冷間圧延鋼板)
SPCとは、Steel Plate Cold を略したものです。
炭素含有量0.1%未満の比較的ライトな炭素鋼であり、鋼材の中でもやわらかい性質をもっています。
そのため、曲げ加工や絞り加工に適していて、厚みの薄い板材が安価でよく流通していますよ。
また、表面が滑らかで外観上きれいであるため、メッキ処理などを施し、車のボディや電子機器の筐体などによく使われるでしょう。
SS(一般構造用圧延鋼板)
SSとはSteel Structureの略称です。
炭素の量が、0.15%~0.2%の低炭素の軟鋼にはなるんですが、なんだかんだで結構丈夫です。
個人的に鉄鋼材使うシーンには「とりあえずSS材」のイメージがあります。
そのくらい汎用性があるということです。
細かく言うと、SS材にも強度別に種類が分かれるのですが、バランスのとれている「SS400」が王道と言えるでしょう。
S-C(機械構造用炭素鋼鋼材)
S-C材も種別があり、例えば一番良く使われるS45Cの場合、「Steel に0.45%の Carbon 含んでいる」と読み取ります。
S45CはSS400同様によく使われる炭素鋼ですが、SS材よりも高い強度が期待できます。
また、焼入れ(強度を高める表面処理)ができる点もメリットとして挙げられるでしょう。
「S45Cは焼入れして使うのが当然」的な風潮ありますが、
- 流通量が多く価格もそこまで高くない
- 材料使い分けるの面倒くさいからなるべく保管する材料統一したい
などといった観点から、実際の工場ではそのまま焼入れ無しで使うときもあります。
「焼入れは必須」と叫ぶ焼入れ信者には注意。
熱処理は精度も若干影響してきますので、薄く長い素材なんかは慎重に検討しましょう。
SK(炭素工具鋼鋼材)
SK材も種類が豊富で、SK95を例にすると「Steelに0.95%の炭素が含まれたKougu向け」の略称となります。
「tool」ではなく「kougu」と表記してしまうところが、ゆとりにやさしく可愛いですよね。
炭素工具鋼鋼材と言われているだけあって、刃物など工具によく使われる材料です。
硬さと耐摩耗性が求められる部分に使用されており、工具以外にもピンやシャフトなどの円柱部品として扱われますよ。
合金鋼
合金鋼とは、炭素鋼の5大元素に加えて他の金属を添加してつくられた鉄鋼材を指します。
加える元素の種類や割合で、炭素鋼より性能は向上しますが、その分コストもかかってきますよ。
炭素鋼では仕様を満たせないときに選定する材料として、活用されるでしょう。
SUS(ステンレス鋼)
合金鋼の中で使用頻度はとても高く、とてもお世話になる金属であるため、機械系でお仕事される方は特性を知っておきましょう。
クロムとニッケルを加えることにより、耐食性が優秀(錆に強い)です。
酸化クロム膜(不動態被膜)が表面を常にカバーしているため、メッキした炭素鋼のように、傷ついた箇所から錆が発生する心配はいりません。
強度と耐食性を求める際は、第一候補として挙がるおすすめの材料となります。
SKS・SKD(合金工具鋼)
炭素鋼のSK材で物足りない場合は、こちらを使用します。
- クロム
- タングステン
- バナジウム
などが追加されており、耐摩耗や焼入れ性がSK材よりも更に向上していますよ。
ドリルやミルなどの切削工具なんかに良く使われる、かなり硬い材料です。
SCr・SCM・SNC・SNCM(機械構造用合金鋼)
炭素鋼のS-C材の強化バージョンです。
代表的なものを簡単に紹介していくと
- クロムを添加し高い硬度と焼入れ性を向上させたSCr (クロム鋼)
- クロムとモリブデンを添加した傷や摩耗に強いSCM (クロムモリブデン鋼)
- ニッケルを添加し粘り強さを向上させたSNC (ニッケル鋼)
- ニッケルとモリブデンを添加し粘り強さと引張り強さを両立させたSNCM(ニッケルモリブデン鋼)
などがあります。
どれも優秀なエリート合金鋼なのですがその分価格も向上しますよ。
まずは炭素鋼やステンレスで対応で対応できないかを検討しましょう。
鋳鉄
鋳鉄とは鉄を主成分として、2.14%〜 6.67%の多量の炭素を含んだ鉄鋼材料です。
したがって、鉄鋼材の中でも非常に優れた硬さや耐摩耗性がありますが、靱性(粘り強さ)が低く、一定以上の衝撃が加わるとすぐに破断してしまいますよ。
また製造工程も特殊で、材料を溶解炉で溶かして、型に流した後に冷やして固めて作ります。(鋳造)
型に流せば形が決まるため、エンジンのシリンダーブロックから道路のマンホールなど、立体的で切削加工では困難な形状でも対応しやすいです。
鋳鉄は引張よりも圧縮方向の負荷に強いため、外から内側にかけて負荷が加わる箇所に選定するのが適切と言えます。
まとめ
大部分の材料は鉄鋼材料が占めているため、機械系のエンジニアは部品選定のためにより鉄鋼に関する知識を深める必要があります。
強度や重さだけで判断するのではなく、耐久性や腐食性、加工のしやすさなど、実際に物を作る工程から考えて部品選定をするのは、なかなか難しいですよね。
今回紹介した様々な種類の鉄鋼材料の特徴を知っておけば、選択する幅も広がって、より質の高いものづくりにつながるでしょう。
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