機械エンジニアが知っておきたい樹脂の種類

ノウハウ

機械系のエンジニアがよく使う樹脂材について半導体装置製造歴10年以上のゆとり課長が簡単にわかりやすく解説していきます。

樹脂とは

みなさんは樹脂という物質をご存知ですか?

由来は読んで字の通り、カブトムシの好物である甘い樹液が固まったものを指します。

「え?じゃあよくプラスチックのことを樹脂材って呼んでるけどあれは樹液でできてるの?」

という疑問が生じますよね。

植物や動物などの天然由来でとれる物質を「天然樹脂」と呼びます。

代表的なもので言うと漆とか松ヤニ(ロジン)など古来からあるもの。

一方で、化学が発展した後、石油などの化石資源を原料として人工的に生成されたものを「合成樹脂」と呼ぶようになりました。

身の周りでよく使われるプラスチックなどはこちらの合成樹脂を加工したものになりますよ。

合成樹脂は現在に至るまで100種類以上あり、日常生活には欠かせない材料として今もなお進化し続けるとてもクールな材料なのです。

合成樹脂の大分類

天然樹脂も魅力的ですが、機械を愛するエンジニアの方々は、合成樹脂と深く関わっていくでしょう。

合成樹脂は大きく「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」の2つに分けられます

あまり聞き慣れない言葉がでてきましたね。

それでは「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」の特性についてそれぞれ解説していきますよ。

熱可塑性樹脂

簡単に言うと、熱を加えると変形する合成樹脂を指します。

食べ物で例えるならチョコレートをイメージすると分かりやすいでしょう。

可塑性(かそせい)とは外から力を加えて物体を変形させた後、力を加えるのをやめても元の形に戻ろうとしない性質です。

つまり、常温時は本来あるべき形状を保っていますが、熱を加えるとチョコレートのように溶けだして変形し始め、その後冷やすと再度固まります。

熱したり冷やしたりを繰り返し、形を変えられるのが熱可塑性樹脂の特徴となりますよ。

さらに熱可塑性樹脂の中でも

  • プラスチック生産量の8割を占める最も一般的な汎用プラスチック
  • 耐熱性と強度を高めたエンジニアリングプラスチック(通称:エンプラ)
  • 耐熱性や難燃性を更に高めたスーパーエンジニアリングプラスチック

の3つのクラスに分けられます。

どんなところに使う部品なのか、どのような加工をするかによって、使う種類は変わってくるでしょう。

熱硬化性樹脂

簡単に言うと、一度固まってしまえば熱を加えても変形しない合成樹脂を指します。

食べ物で例えるならクッキーをイメージすると分かりやすいでしょう。

最初に生地を作る時は液状ですが、型に流してオーブンで焼くと固体化してクッキーが完成します。

また、チョコレートとは異なり、完成したクッキーは熱しても再度柔らかくなったり溶けたりしませんよね。

つまり熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比べて耐熱性にすぐれていると言えます。

また、曲げや歪みなどクリープ特性(一定の荷重をかけ続けると徐々に変形する現象)に優れていますよ。

しかし、一定以上の力が加わると一気に破損するといったデメリットも存在するので、扱いには注意が必要です。

よく使う合成樹脂

合成樹脂の中でもそれぞれが持つ特性によっていろんな種類に分けられるようです。

では、どんな時にどんな種類の合成樹脂を使用するのか気になりますよね。

ここでは、機械設備関係の工場でよく使う代表的な合成樹脂をピックアップしてみました。

それぞれ特徴を把握して、適切な部品選定ができるようになりましょう。

PVC(ポリ塩化ビニル)

安い価格で大量生産が可能なお手頃熱可塑性樹脂。

耐水性と絶縁性に優れていています。

中でも、酸性・アルカリ性の薬品や溶剤にも強いことから、水まわりのパイプ材とかによく使用されていますよ。

硬質PVCは一見強度ありそうですが、振動や繰り返し負荷がかかるような部分に使うと、割れてしまうので注意が必要です。

ABS(アクリロニトリルーブタジエンースチレン樹脂)

使い勝手が良く、樹脂の中ではおそらく最もポピュラーな汎用プラスチックです。

  • 光沢や着色性に優れているため、デザインが決まりやすい
  • 切削や表面処理、3Dプリンターにも使えるなど柔軟な加工ができる
  • 汎用プラスチックの中ではそこそこの耐熱性と耐衝撃性がある

このような理由から、一般家電製品などに幅広く使われています。

ただし、そこそこの耐衝撃性があるからと言って強度目的で選定するのは控えておきましょう。

PC(ポリカーボネート)

樹脂の中でも金属に劣らない高い強度をもったとても優秀なエンプラです。

また透明性が高いので、保護カバーなどの役割で使う機会が多いでしょう。

実際に戦闘機の窓や機動隊の盾なんかにも使われていますよ。

「軽くて透明で強度も高いなんて、とっても優秀だから樹脂材使うならこれ一択でしょ」

と言いたいところですが、価格がやや高いところと、耐薬品性が低いと言ったデメリットが挙げられます。

「ポリカーボネートにねじロックなどの接着剤をつけたら翌日亀裂が生じていた」

というケースをよく耳にするので、みなさんも気を付けましょうね。

POM(ポリアセタール)

引張強さや耐摩耗性に優れた、金属部品の代替品としても注目されるエンプラです。

※ポムのことを「ジュラコン」と呼んでた時期があったのですが、ポリプラスチックス(株)の商標名らしいですね、知らなかった…

ポリカー同様に強度が高い樹脂として人気で、疲労にも強いことから、機械の歯車などに利用されていますよ。

優秀な樹脂材ですが、燃えやすい点と紫外線に弱いというデメリットがあります。

屋外で使用するものには避けた方がいいでしょう。

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

スーパーエンプラの代表格的な存在で、灰褐色の何とも言えない独特な色が特徴。

耐熱性がめちゃくちゃ優秀なので、触るとやけどしてしまうくらい高温で使う温調ユニットの断熱材などには最適な樹脂材です。

機械的な強度も確保しつつ、耐薬品にも優れているので、半導体や自動車関連の様々なパーツに利用されています。

LCP(液晶ポリマー)

こちらもスーパーエンプラに属する樹脂であり、耐熱性に優れているのはもちろん、流動性が良い点も注目されていますよ。

樹脂製品を作るときに射出成形と言って金型に溶かした樹脂剤を流し込んでいく訳ですが、流動性がいいと、金型の細かい箇所にもしっかり行き届きます。

結果、厚みが薄い成形品や精度が要の超精密成形品に適している樹脂と言えるでしょう。

モーターのボビンやスマホのカメラモジュールなど細かい部分に使われている、精度出したい時におすすめの樹脂です。

EP(エポキシ)

主に接着性と耐熱性に優れた熱硬化性樹脂です。

これまで紹介してきた樹脂剤とは異なり、熱硬化樹脂に該当します。

接着剤用途によく使われる樹脂材で、コンクリートや金属など様々な素材の接着が可能ですよ。

硬化した後は耐熱性・密着性・絶縁性のなどのバランスが良いので、接着剤のみならず、電子機器や複合材料など活躍の場は幅広いでしょう。

PUR(ポリウレタン)

こちらも熱硬化性樹脂の種類に属しており、弾力性、柔軟性が優れていることから、各種緩衝材の原料として幅広く使用されています

元々は天然ゴムの代替品として開発されたため、ゴムのような伸縮性も持っていて、シューズのソールなどクッション性が求められる部分に活躍するでしょう。

耐油耐水性にも優れていることから、空気圧機器におけるチューブなどもポリウレタン樹脂が使われていますよ。

【補足】繊維強化プラスチック

様々な合成樹脂を紹介してきましたが、科学の発展とともに繊維強化プラスチックというめちゃくちゃ優秀な素材も誕生しました。

例を挙げると

  • CFRP(炭素繊維強化プラスチック:カーボン樹脂)
  • GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)

あたりでしょうか。

軽いし丈夫でとても魅力的な樹脂材なんですが、価格が高い他に加工が難しいというデメリットがあります。

切削時に発生する粉塵を吸い込んでしまうとガラス繊維が肺に刺さるリスクがあり、実は非常に危険な材料なんです。

加工するときは適切な保護具と換気を行える環境が必要なので、安易な気持ちで加工するのは絶対にやめましょう。

まとめ

我々の身の周りには様々な樹脂剤が活用されています。

「樹脂は金属より強度が弱く頼りない」と感じて、使うのをためらってしまう方も多いでしょう。

時代とともに、合成樹脂にも金属に劣らない耐久性を誇るものが増えてきました。

重量や強度、耐久性などの製品仕様を考慮する機械エンジニアにとって樹脂材の知識は必須です。

適切な材料を選択し、質の高いものづくりを目指していきましょうね。

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