機械組立においてカップリングは扱う頻度の高い部品と言えるでしょう。
皆さんはカップリングを使う時、どんなことに注意していますか?
モーターが空回りした音、もしくは動作中のロボットからでる異音が現場から聞こえると、私はまずカップリングの使い方に問題がないかを確認しますね。
カップリングはモーターの動力を伝える重要な役割をもっているため、使い方を誤ると機械トラブルに発展しますよ。
今回は機械組立でよく使うカップリングの役割と使い方について、製造歴10年以上のゆとり課長が簡単に解説していきます。
カップリングに対する最低限の基本知識をおさらい、もしくは習得して、「知らなかった」という作業者が少しでもいなくなれば幸いです。
カップリングとは

カップリングとは、軸同士をつなげる機械要素部品であり、軸継手やジョイントと呼ばれています。
2本のシャフトを双方からカップリング内に挿入し、ネジで締結する機構です。
産業機械においてモーターのシャフトやボールねじの先端などの連結によく使われていますよ。
カップリングの役割
カップリングの種類は豊富であり、サイズ以外にも性能や役割が変わってきます。
ここではカップリングの役割について4つ紹介していきます。
軸を繋ぎ合わせる以外にどんな役割がカップリングにあるのかを、きちんと理解しておきましょう。
動力の伝達

軸同士を繋ぐということは、駆動力を従動側へ伝えることが可能です。
例えば、図のようにモーターと歯車がそれぞれ独立していると、駆動側のモーターシャフトが回転するだけで歯車は回りません。
カップリングで双方のシャフトを固定すれば、モーターと歯車のシャフトが一体化し、歯車に動力を伝達できますよね。
カップリングのネジを緩みなく締結することで、大きなトルクであってもしっかりシャフト同士をつかんだまま回転してくれます。
軸心ズレの許容

カップリングは軸同士のズレもある程度許容して動力を伝達してくれます。
実際に2本のシャフトを組み合わせる際に、見た目はまっすぐでも多少の誤差(芯ずれ)はどうしても生じてしまうものです。
上の図は極端な例ですが、双方の軸位置が悪くても、カップリングの柔軟性によってある程度カバーできますよ。
ちなみに機械軸における芯ずれのことを製造業ではかっこよくミスアライメントと呼びますので、ぜひ覚えておきましょう。
振動や衝撃の緩和
「カップリングなんか使わなくても、最初から長いシャフト使って駆動側と従動側で一体化させれば良いのでは?」
設計においてこのような考え方もありますが、完全に一体化させてしまうと、従動側で拾う衝撃や振動がそのまま動力源に伝わってしまい、モーターなどの高価な部品を損傷させるリスクが高まります。
反対にモーター側の振動が装置内に伝わってしまうと精度等にも影響がでてしまいますよね。
また、どこか異常が生じても、一体化されていた場合は部品単位での交換ができないため、メンテナンス性が非常に悪いです。
カップリングで中継させることで、ユニット化が容易になるのはもちろん、カップリングの柔軟機構が振動を吸収できる機構になっているため、動力側にかかるストレスを軽減できます。
万が一大きな負荷が掛かっても、動力源ではなく中継役のカップリングが先に破断するため、駆動側の被害を最小限に抑えられるでしょう。
耐熱性
カップリングの役割として意外と知られていないのが耐熱効果です。
動作中のモーターは触ると熱いですよね。
あの熱がシャフトを通じて装置内に伝わり、トラブルを引き起こす可能性も十分にあります。
カップリングを間にかますことで、動力源からの発熱が従動側へ伝わりにくくなりますよ。
カップリングの種類によっては、耐熱性に優れたものもあるので、もし使う機会があれば動作後に触って確かめてみましょう。
カップリングの使い方
カップリングの役割について理解できましたか?
動作機構をもつ装置においては非常に便利な部品であるため、使う頻度が高くなるのも納得です。
では実際にカップリングを使う時はどんなポイントに注意すればよいのか気になりますよね。
カップリングの使い方は各々のメーカーの取説に記載されており、種類によって手順が若干異なりますが、大まかな使い方は同じです。
ここからはカップリングの使い方について簡単に解説していきます。
正しい使い方を知って、機械の性能を最大限に引き出しましょう。
洗浄
まずは、カップリングで締結する部分を綺麗にしておきましょう。
ゴミや油が付着していると、カップリング締結部分の緩みやすべりの原因になってしまいます。
特にモーターやボールねじのシャフト部分には防錆剤などがコーティングされているので、揮発性の洗浄液をしみ込ませたウエスなどで予め拭いてください。
軸芯だし

軸方向と回転方向にカップリングがスムーズに動くかを手で動かしながら確認していきます。
カップリングの役割において軸心ズレの許容が挙げられますが限度がありますので、可能な限りカップリングに負荷をかけない位置を探っておきたいところ。
カップリングのネジを緩めた状態で、
- 軸方向にスムーズに行き来できるか
- 指で抵抗なく回転するか
を確認することで、簡易的に軸心だしが可能です。
完成後、動作中に異音もしくはモーターの発熱が目立つようであれば、軸心だしが上手くできていない可能性があるため再確認してみましょう。
挿入量を決める
カップリングを挿入量は、メーカーの推奨値に従います。
挿入量は基本的にどちらも対になるケースがほとんど。
やってはいけないのが、
- 挿入量が深すぎてカップリング内でシャフト同士が接触している
- 挿入量が極端に浅い
の2点です。
カップリングの破損やすべりに繋がるので注意しましょう。
締結

軸心だしや挿入量が決まったら、最後に忘れずカップリングのネジを締結しましょう。
締め忘れやネジ締め不足による組立ミスを招かないためにも、指定トルクを守った締結と増し締めマーキングの実施をおすすめします。
Dカットのシャフトをカップリングに組み付ける場合は図のように、Dカット面をクランプ部分の溝の方向から避けるように位置決めしてください。
Dカット面の向きによっては、ネジ締め時の過剰なトルクによってカップリング自体を破損させやすくしてしまうため、注意が必要です。
まとめ
カップリングは軸と軸をつなげる役割があり、柔軟性をもった機構であるため、衝撃吸収やミスアライメントのカバーなど、使い勝手の良い継手部品です。
とは言え、カップリング自体になるべく負担がかからないように、軸心だしや挿入深さなど、組立の段階で調整するポイントがあります。
カップリングの使い方を間違えて動作不良を起こさないためにも、組立作業者への教育は必須と言えるでしょう。
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