ものづくり界隈では機械設計と生産は別々で業務を切り分るため、
「これまでいろんな機械設計をしてきたけど、完成品を見たことないんだよね」
という機械設計者がいるのも珍しくありません。
CADで図面を作成したら終わりだなんて、なんか寂しいですよね。
ものづくりでスキルを磨くためには、技術者であっても現場経験を積むことが一番手っ取り早いです。
今回は、機械設計者における現場経験の必要性をテーマに機械製造歴10年以上のゆとり課長が現場目線で解説していきます。
機械設計者の方や工場勤務の製造の方々はぜひ参考にしてください。
現場経験のない機械設計あるある

「設計が製造現場の経験をして何の意味が?」
「現場を知らない設計とか当たり前だし…、設計は事務所で図面を書くのが仕事だから…」
現場経験のない設計者の何が問題なのでしょうか。
まずは、現場経験のない機械設計者が及ぼす生産ラインあるあるを紹介していきます。
現場・現物・現実の三現主義を無視した設計が、ものづくりの製造現場にどんな影響を及ぼしてしまうのか理解しておきましょう。
生産の歩留まりを引き起こしやすい
製造現場で使用する機械や設備を知らないまま設計してしまうと、思いがけない工程内不良を引き起こし、生産に歩留まりが生じてしまいます。
例えば、
- 筐体内に工具が入るスペースがなくて組立ができない
- 周囲の温度変化によって品質が影響する
- 寸法誤差により各部品の組み合わせ次第で結果がまちまち
などがあるあるですね。
図面上では問題ないように見えるのに、
「なぜ?こんなはずでは…」
といった現象が製造現場では起こってしまうのです。
設計者の図面がそのまま一寸の狂いなく形となれば良いのですが、実際の出来栄えは製造現場の微妙な環境変化によっても左右されるでしょう。
製造現場の環境も考慮しながら設計するものづくりって難しいですよね。
ユーザー視点の欠如
現場経験が少ない設計者は日頃から製品に触れていないため、ユーザー視点の使いやすさや耐久性を考慮できない傾向があります。
- スイッチや操作パネルの配列が使いづらい
- 筐体のカバーが開けにくいためメンテナンス性が悪い
- 負荷が掛かりやすい部分なのに材質が弱く強度が不十分
このように、付加価値の低い製品をつくり続けると、すぐ競合メーカーに切り替えられてしまうでしょう。
「仕様書通りに動けばOK」という考え方の設計が根付いてしまうと、ものづくりのレベルはいつまでたっても上がりませんよね。
現場従業員との確執
仕事を進めていく上でお互いの話が噛み合わないと、イライラして対立関係を築いてしまいますよね。
設計と製造が別々の建屋で離れていると、製造工程内でトラブルが生じた際に、製造は現物を見ることができますが、設計者は現物が見られないため、図面を見て判断します。
現物と図面で見る対象物が異なるため、解決するのに苦戦を強いられるでしょう。
原因がはっきりしないと設計側は、
「加工と組立がおかしいのでは?図面ちゃんと読め、製造嫌い!」
と主張する一方、製造は、
「図面の書き方が悪い!設計嫌い!」
といったやりとりをよくしますね。
特に私の工場では、図面上の幾何公差が正しく表現されていないことが原因で、設計者の意図しない仕上がりになってトラブルに発展する事例が多いです。
納期に対する認識のずれ
出荷業務に直接関わる製造は納期厳守であるため工数意識が根強いですが、現場経験がない設計担当者は生産管理などとは違い、出荷日や生産フローを常に把握していません。
例えば、製造現場から設計者に確認事項があって問い合わせる時も、
「明日までに図面で問題ないか確認しとくよ」
と設計者から返事をもらいますが、現場の人間の立場からすると、
「いや今すぐに確認しろよ、作業止まって先に進まない…」
「明日はもう次の工程に移らないと出荷が間に合わない」
という状況によくなります。
このように現場経験がない設計者は納期に対してルーズな対応をとりがちで、製造現場と温度差が生じて対立関係を促進させてしまうのです。
なぜ設計者は現物を見ないのか

「自社製品を組み立てた経験がないのによく機械設計できるよな」
「自分で設計した機械が最後どんな仕上がりになったのか気にならないのかな?」
日ごろ工場勤務している製造現場の方々は、図面の作成者に入社して間もない新入の名前が書いてあると不思議に思うでしょう。
なぜ機械設計者は現物を見る習慣がないのでしょうか。
ここからは、機械設計者が現物を見る習慣がない理由について3つ紹介していきます。
製造現場は一方的に「設計嫌い」と思わず、設計者側の都合も知っておきましょう。
CADソフトウェアの普及
今は昔、ドラフターを使って図面を手書きしていた時代もありましたが、CADが普及し2Dから3D図面も当たり前になりました。
設計ソフトも近年は更に進化して、仮想空間でも様々なシミュレーションが可能となり、よりリアルなモデルが作れます。
また、設計中に現物を見て確認したい部分があっても、3Dプリンターで簡単に造形できますよね。
結果、現物を目の前にして設計せずとも複雑な機構の作図ができるので、設計者がわざわざ現場へ足を運ばずに済むようになったのです。
勤務地が現場と離れている
会社の規模が大きくなると、設計開発部門は本社ビル、生産部門は郊外にある工場にそれぞれ勤務先が分かれるケースがあります。
物理的に距離が離れていると、現物を見に行くことが実際困難です。
現物を見に行くための移動時間や費用を考えると、事務所に残って設計業務を進める方が優先度は高いと言えるでしょう。
そうなると、設計上で何か問題が発覚しても現場スタッフに対応せざる得ない環境になってしまいますよね。
過去の実績がある
過去に似たような製品を納めた実績があれば、一から考え直さなくても、当時の図面や参考資料の流用が可能です。
設計側も蓄積されたデータを活用してなるべく新規設計の手間を省きたいですよね。
もちろん、参考にする図面の中でも、そのまま流用できる部分とできない部分の見極めは必要ですよ。
過去の設計データや参考資料を活用すれば、現物確認の必要性は少なくなるでしょう。
機械設計者が現場経験を積むメリット

設計者からすると、「製造現場へ行く=設計上で何か大きなトラブルを招いてしまった時」のイメージが強いためか、現場作業に立ち会うことが罰ゲームみたいに考えている技術者もいるようです。
設計者が現場経験をするメリットはないのでしょうか…
そこで今回は機械設計者があえて現場経験をするメリットを3つ挙げてみました。
機械設計者が現場経験を積むメリットは、
- 設計の重要性を体感できる
- ユーザー視点のモノづくりができる
- モノづくりにおけるコミュニケーション能力の向上
になります。
それぞれ理由を解説していきますね。
設計の重要性を実感できる
ものづくりにおいて上流に位置する設計というポジションはとても重要です。
自分の書いた図面が各製造現場でどのような影響を及ぼすのかを知ることで、設計というポジションの重要性を改めて実感するでしょう。
- 設計ミスや図面の細かな表記ミスがどれほどのロスを生んでしまうのか
- 製造現場がどのような図面を求めているのか
など、現場経験を通じて設計起因による歩留まりがなくなれば、余計なコストや納期遅延もなくなります。
ユーザー視点のモノづくり
実際に製品を触ることで、ユーザー視点で使いやすい設計思考をもつようになるでしょう。
例えば、
- 長年の使い続けることを想定し部分的に板厚を増す
- ハンドル部分のグリップ感がいまいちだからもう少し手に馴染む材質を選定する
- 工具がなくても簡単に分解してメンテナンスができる設計に変更
など、設計時に考慮すべき要素が使ってみて初めて明確になりますよ。
性能以外の付加価値を設計に盛り込むことで、ユーザーの満足度も向上できます。
チームワークやコミュニケーション能力の向上
製造現場で加工方法や生産フローを理解することも大切ですが、顔や名前をお互いに覚えておくことも重要です。
つくるものの規模が大きくなるほど、より多くの従業員とコミュニケーションをとる必要があります。
生産現場と直接コミュニケーションを取っていけば、自然とチームワークも良くなり今後の業務も円滑にこなせるでしょう。
わからないことがあれば気軽に相談できる現場の人間がいると、設計者としても安心ですよね。
設計と製造現場の距離を縮める解決策

設計が製造現場を知るメリットを解説しました。
設計と製造で実際に物を見ながら意見を出し合い生産できるようになると、組織としてのレベルも格段と上がるでしょう。
では実際に、設計が現場を知る環境下にするためにはどのような方法があるのでしょうか。
ここからは設計と製造現場の距離を縮める解決策を3つ紹介していきます。
現場を知らない設計者が多くて困っている職場は参考にしてくださいね。
工場内に設計者を常駐
一番の理想は製造現場と同じ工場内に設計担当者を常駐させることです。
設計者と物を見ながらの確認項目があれば、同じ建屋にいるためすぐに製造現場へ合流できます。
ただし設計者の勤務先が変わるため、担当者間では決められず上層部の判断が必要となるでしょう。
「いや、そんなの無理だよ」
と最初からあきらめずに、製造現場と近い場所に設計がいると、会社にとってどのようなメリットがあるのかをしっかり上に説明してみるのもありですね。
ビデオ通話などのリモート環境を整える
設計と製造現場で物理的に距離が離れていても、Webカメラなどを通じて現物を見ながらの確認が可能です。
近年、リモート環境が普及してきたので、設計者を工場に常駐させるよりかはだいぶハードルが下がります。
周囲の音がうるさいと聞き取りづらかったり、見たい場所にカメラが届かなかったり、少し手間はかかりますが、電話でやり取りするよりも話がスムーズに進みます。
製造からのフィードバック体制を構築
現場の声を設計担当者へ発信し、 設計に反映させる場を定期的に設けることで現場感覚を養うことができますよ。
製造現場側の負担にはなりますが、作りにくいと感じたところや、気になった箇所を写真などを残してコメントと共に設計者へフィードバックします。
製造現場から挙がってきた情報に対して、設計はすぐに反応することが大切です。
「図面の間違いを指摘してもすぐに直してくれない…」
など、報告する側のモチベーションが一度下がってしまうと、フィードバック体制を維持するのは難しいでしょう。
まとめ
現場を知らない設計者が増えると、良いものづくりはできません。
現場で発生する問題を設計段階で極力潰していくためには、設計者も日頃から現物に触れ、現場経験を通じて製造とコミュニケーションをとるのが一番です。
また、製造現場は一方的に、
「ウチの会社は現場を知らない設計ばかりで困るよね」
などと愚痴を言わず、設計開発側にどうして欲しいのか製造現場の意見をまとめて伝える努力をしてください。
部門間の壁を壊すためには、お互いに業務を理解しリスペクトすることが大切ですよ。
設計も製造も「良いものづくり」を常に目指しています。
機械エンジニアの方々は現場経験を通じて、設計と製造のギャップを極力減らしていきましょう。
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