はんだ界隈では、ソルダーカップ端子への予備はんだするしないで今もなお激しい論争が繰り広げられています。
「Dサブコネクタのカップ端子に予備はんだしなくても大丈夫だよ」
「いや、予備はんだしないとかありえないから!」
装置製造メーカーで工場勤務してると、こんなやりとりをよく耳にします。
一体、カップ端子へ予備はんだするしないはどちらの意見が正しいのでしょうか…
今回はソルダーカップ端子へのはんだ付け方法について、現役製造社員のゆとり課長が簡単にわかりやすく紹介していきますよ。
ソルダーカップ端子への正しいはんだ付け方法を理解して、質の高いものづくりに貢献できるようになりましょう!
ソルダーカップ端子とは
「そもそもソルダーカップ端子とは何?」
形は見たことあるかもしれませんが、部品名を知らない方も多いのでおさらいしておきますね。
はんだ付けする対象にはいろんな種類があり、その中でもD-subコネクタなどに使われるソルダーカップ端子は、リード線(電線)のはんだ付けによく活用されております。
ソルダーカップ端子とは筒状のカップ内に電線を突っ込んではんだ付けするタイプの端子を指しますよ。
カップの大きさや形状、表面処理はメーカーによって様々であり、それによってはんだ付けの難易度が左右されるため、はんだ付け初心者キラーとも言える端子です。
ソルダーカップ端子へのはんだ付け方法
ソルダーカップ端子へのはんだ付け方法は主に2通りあります。
ソルダーカップ端子へ予備はんだする方法としない方法の2通りです。
「いやいや、だからソルダーカップ端子に予備はんだしない方法なんてやっちゃダメだから!」
と思われる方、まあ落ち着いてください…
まずはどんな方法なのかそれぞれ私自身が実践しながら解説していきますね。
ちなみに今回のソルダーカップ端子へのはんだ付け条件は以下の通りです。
- 鉛フリーはんだ
- こて先温度350℃
- 電線太さAWG26
ではやっていきましょう!
ソルダーカップ端子へ予備はんだする方法
おそらく、ほとんどの製造現場はこちらの手順で教わるのではないでしょうか。
ソルダーカップ端子へ予備はんだする方法は次の手順で行います。
- はんだコテ先をカップの外側横に当て温める
- はんだを溶かして、カップ内に流し込む
- リード線に予備はんだする
- カップ端子入り口にリード線先端をセット
- カップの中の予備はんだを温めて溶け始めたらリード線挿入しコテ離す
ポイントは予備はんだの量と、コテ先をカップ端子に当てた状態でもたもたしないこと。
カップ端子内の予備はんだ量は、後々リード線を挿入することを考えて、カップ奥にチョンと流しこむ程度で十分です。
※写真②の量はちょっと多すぎたかもしれませんね…
また、カップ端子を何秒もコテで温めていると、コネクタ自身が溶けてしまい取返しがつきません。
おそらく写真④⑤の工程が初心者にとって鬼門です。
挿入時により線がほつれたり、手が震えて狙いが定まらないときは、コネクタが溶けるリスクを考えて一旦コテを離し加熱をキャンセルしましょう。
ソルダーカップ端子へ予備はんだしない方法
次に、ソルダーカップ端子へ予備はんだしない方法を紹介していきます。
- リード線に予備はんだする
- 予備はんだしたリード線をカップ端子内にセット
- はんだコテ先をカップの外側横に当て温めながらはんだを流し込む
以上です。
ポイントはカップ端子の奥まではんだを流すことです。
カップの奥まではんだが流れていないと、はんだ付け部分の強度が低下し、振動などによって疲労破壊を促進させてしまう可能性があるでしょう。
カップ端子への予備はんだありなしで起こりえる現象
おそらくカップ端子と電線の両方に予備はんだする方法が一般的なやり方だと教わると思います。
むしろ企業によっては、後者で紹介したカップ端子に予備はんだしない方法を禁止とするところもあるでしょう。
カップ端子に予備はんだしないやり方はなぜ嫌われるのでしょうか…
ここからは、ソルダーカップ端子への予備はんだありなしで起こりえる現象を作業性と仕上がりに分けて解説していきます。
それぞれのやり方で起こりえる現象を理解し、メリットデメリットを抑えましょうね。
作業性
新人教育で今回紹介した2通りのやり方を紹介すると、ほとんどの新人は後者の予備はんだしない方法がやりやすいと回答しますね。
また、カップ端子へ予備はんだする工程がありませんので、その分の工数が削減できます。
カップへ予備はんだしない方法のメリットをまとめますと、
- すばやく作業を終わらせられる
- 一番の難所であるはんだを溶かしながらリード線を挿入する工程がないので簡単
- カップ端子の中へセットした状態ではんだができるので安定性が良い
といったところです。
一方で初めから予備はんだありで慣れているベテラン作業者もいるため、予備はんだなしは全員がやりやすい方法という訳ではありません。
仕上がり
予備はんだありなしで起こりがちな仕上がり具合をあえて再現してみたのか上の写真になります。
予備はんだなしで行った方(写真左)を見ると、一見カップ端子へ正常にはんだが盛られている感じがありますが、よくカップのスキマ(金属の合わせ目)を見てみると空洞ができていますね。
これが予備はんだ推奨派の方々が警戒している、「カップ端子奥まではんだが行き届かない」現象であり、見た目は良いけど中がスカスカの状態で強度不足な状態です。
今回使用したカップ端子は隙間(金属の合わせ目)があるため目視確認できますが、種別によっては隙間がなく、はんだが奥まで充填されているかの判断が外観上できません。
一方で、予備はんだありで行った方(写真右)を見ると、はんだの量が多くなってしまい、丸みを帯びたイモはんだに近い状態となっていますね。
カップ端子への予備はんだの量ですが、よくばって盛りすぎると、リード線の挿入時にカップ端子内の予備はんだが溢れてしまいます。
はんだ量が多いと電気抵抗が増して導通不良を招く恐れがあるため、カップ端子へ予備はんだする場合もはんだ量をよく考えておく必要がありますよ。
ソルダーカップ端子へのはんだ付けの良否判定
カップ端子へのはんだ付けはどんなポイントを見れば良いのかをおさらいしておきましょう。
上の写真は我ながら良くできたと思う良品見本となります。
ソルダーカップ端子へのはんだ付けのポイントは以下の4つです。
- はんだの量は適切か(はんだが馴染んだより線の筋がうっすら見える程度)
- はんだの濡れ性が適切であるか(なめらかにはんだが馴染んでいるか)
- ソルダーカップ端子の奥まではんだが行き届ているか
- 被覆の向き長さが適切であるか(カップ端子入口から2mm以内)
- 被覆は熱で溶けていないか
カップ端子へのはんだ付けは、これらの項目全てクリアしていることが重要となりますよ。
まとめ
ソルダーカップ端子へのはんだ付け方法は大きく分けて2つ、カップ端子とリード線両方に予備はんだを施すやり方と、リード線のみに予備はんだを施しカップへは予備はんだしないやり方があります。
カップ端子へ予備はんだしないやり方は、はんだを溶かしながらリード線を挿入する工程が省けるため難易度は簡単です。
ただしソルダーカップ端子の奥まで十分にはんだが供給できないと、表面上だけはんだが盛られてしまい、NGに気づけないケースがあるでしょう。
基本的には、会社(組織)の作業手順に従ってはんだ付けするのが無難ですね。
決められた手順を無視してオリジナルなやり方をすると、工場勤務の場合めちゃくちゃ怒られます。
特にルールがなければ、両者のメリットデメリットを把握し、上手く使い分けてみてください。
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