電気配線の作業で必須技能である圧着は、はんだ付けよりも簡単に接続できる方法として、第二次世界大戦以降の製造業界に普及しました。
圧着はハンダ付けよりも簡単にできるため、電子機器組み立て技能士のみならず、車やバイクいじり、DIYなどのご家庭でも活躍する機会が多いでしょう。
圧着端子は電力、電気信号のやりとりをする非常に重要な部品であるため、正しい使い方ができないと使用途中に電気トラブルを招き、大きな事故に繋がるかもしれません。
したがって、圧着作業は簡単と油断して、なんとなくやってしまうのは非常に危険です。
今回は数ある圧着端子の中でも、使用頻度の高い絶縁被覆付き丸型端子の正しい使い方について、製造歴10年以上のゆとり課長が簡単に解説していきます。
被覆付丸型端子の確実な圧着作業を理解し、安心安全な電気接続を行えるようになりましょう!
丸型端子とは
丸型圧着端子は先端が円になっているのが特徴であり、円の真ん中にビスを入れて端子台などに締め付けます。
身近で言うと、電化製品のアース線や分電盤などの接続に使われていますね。
その辺にあるネジやナットで固定できるため汎用性高く電線を接続できますよ。
丸型圧着端子は芯線部分だけ圧着する裸圧着端子と芯線とビニール被覆部分を圧着する絶縁被覆付圧着端子の2種類があります。
絶縁被覆付き丸型圧着端子の方が裸圧着丸型端子よりも、圧着時に芯線に加わる負担を減らし、経年劣化による断線を予防できるため優秀です。
ただし高温箇所に使用する場合、絶縁被覆付きはビニール部分が溶けてしまう恐れがあるため、耐熱性という観点から裸圧着丸型端子も使われますのでこの辺の使い分けは覚えておきましょう。
また、丸型圧着端子は電線の太さや固定するネジの径によっても使い分けされるので、使用前に型式などをよく確認しておきましょう。
丸形圧着端子の呼び方
型式を読みとることで、使用する丸型圧着端子の種類を特定することが可能です。
例えば、「R1.25-4」と記載されいる丸型圧着端子があったとしましょう。
「R」は端子の形状が丸型であることを示しており、他には「Y」のY型や「TC」の棒形がありますよ。
「1.25」は電線の太さである断面積1.25mm2を示しており、「4」は固定するネジのサイズがM4であることを示してします。
つまり「R1.25-4」は「先端が丸い形状の電線太さ1.25mm2用でM4のネジが通る圧着端子」と読み取れますね。
丸形圧着端子と電線サイズの選び方
同じ丸型圧着端子でも電線のサイズによって種別を使い分けないと、断線や抜けの原因になります。
使用する電線は1本の針金のような単線と複数の細かい芯線が1本に束ねられたより線に分かれますよ。
それぞれ電線サイズと丸型端子の大きさは以下の規格換算表を参考に選定してください。
R端子の呼び | 単線(mm) | より線(mm2) | 電線サイズ(AWG) |
0.5 | 0.35~0.7 | 0.2~0.5 | 26~22 |
1.25 | 0.57~1.44 | 0.25~1.65 | 22~16 |
2 | 1.14~1.82 | 1.04~2.63 | 16~14 |
5.5 | 1.82~2.89 | 2.63~6.64 | 12~10 |
8 | 2.89~3.65 | 6.64~10.52 | 8 |
14 | 3.65~4.62 | 10.52~16.78 | 6 |
例えば、より線の太さが「1.25mm2」の場合、「R1.25」と「R2」が両方とも適用できるということになりますね。
丸型圧着端子に必要な道具
丸型圧着端子に関わる道具は以下の4点です。
- 丸型端子(TMEV 1.25-4)
- 電線(UL1007 AWG22 緑)
- ワイヤーストリッパー
- 圧着工具(NH-11)
「丸端といえば?そうだね!ニチフさんだね!」
という訳で、今回の圧着工具はニチフさんから販売されている専用圧着工具のNH-11をご用意しました。
万能電工ペンチがあれば、ワイヤーストリッパーと専用圧着工具は必要ないです。
万能電工ペンチについては別途記事にしたいと思います。
圧着不良を防ぐため、使用する電線と丸型端子にそれぞれ適合したサイズの道具を必ず選定してください。
また同じサイズでも裸圧着端子と絶縁被覆付圧着端子に使用する圧着工具は異なりますので注意しましょう。
かしめる部分の歯の枚数が裸圧着端子は1枚、絶縁被覆付圧着端子は2枚となっています。
圧着の手順
では実際にどのような方法で圧着をするのでしょうか。
先ほど紹介した道具を使って、絶縁被覆付き丸型端子を圧着していきます。
電線の被覆剥きから圧着工具の使い方を正しく理解して、誰が見ても大丈夫と思える安心安全なハーネスを作れるようになりましょう。
電線の準備
ワイヤーストリッパーを使って、電線の被覆を適切な長さで剥きます。
いきなりですが、この最初の被覆剥き長さが圧着の出来栄えを左右する最重要管理項目だと思ってください。
※最重要管理項目なのに適切な長さとか言いやがって…
適切な長さの決め方ですが、まずそれぞれ圧着端子を潰す(かしめる)部分を知る必要があります。
今回の絶縁被覆付き丸型端子の場合は赤い部分をかしめるのですが、径が大きい部分(写真でいう左から電線挿入して1番最初の点線)までが電線の被覆が入り、径が小さい部分から(1番目と2番目の点線範囲内)は芯線のみをかしめる構造になっています。
ポイントは芯線かしめ部分より先端側+1mm程度長く被覆を剥くことです。
今回の場合、芯線かしめ部分は約6mm程度ですが、圧着後にちょっと芯線の先端をひょっこりさせたいので、被覆の剥きシロは約7mmが適切であるといえますね(先端ひょっこり部分をブラシと言います)。
1mm程度芯線の先端をひょっこりさせる理由は、圧着後にきちん芯線が最後まで挿入されているかの確認をとるためです。
長さが決まればワイヤーストリッパーを使って芯線に傷をつけないように被覆を剥いていきましょう。
今回の配線サイズはAWG22であるため、ワイヤーストリッパーのAWG22と記載された刃の溝に電線を挟んで引っ張ります。
被覆が剥けないからといってワイヤーストリッパーに電線挟んだ状態でぐりぐり回しながら引っ張ってしまうと心線が数本切れてしまいがちなので注意です。
丸端子を圧着工具にセット
専用圧着工具は圧着不足対策のために、最後まで工具のグリップ部分を握らないと開かないラチェット機構になっています。
一旦最後まで握って圧着工具を開いたら、写真の向きで絶縁被覆付き丸型端子をセットします。
絶縁被覆付きの圧着工具はかしめる歯が2枚あって、厚みのある歯が被覆側で薄い歯の部分が心線側になりますよ。
挿入する方向を間違てしまうと、かしめた時に違和感があるため気づくと思われがちですが、初心者の方は気づかないで無理やりそれっぽく圧着するので、注意が必要です。
絶縁被覆付き丸型端子をセットしたら動かないようにラチェットを1回「カチッ」となるまで圧着工具を軽く握って仮止めしておきましょう。
圧着する
圧着工具に絶縁被覆付き丸型端子をセットしたら、電線を挿入します。
電線の心線が端子内の金属部分としっかり接触する位置を決めます。
専用圧着工具の場合、電線を適切な被覆の長さで剥いていれば、突き当てまで挿入でOKです。
ただし、より線が端子内に引っかかってほつれないように、挿入側から見て心線すべてが端子内に真っすぐ挿入できているかを確認しておきましょう。
位置が決まれば、工具が完全に閉じるまで握って圧着をしていきますよ。
片手で最後まで握れる人がいますが、私のような握力に自信がない人は最後は両手で握ってもらって大丈夫です。
ラチェットが効かないところまで握り、手を離すとバネで圧着工具が開きます。
圧着後の確認
圧着できたら、圧着部分がしっかり結合できているかの確認をしていきます。
- 心線の出しろ(ブラシ)がわずかに見えているか
- 電線軽く手で引張試験を行い抜けないか
- 被覆と心線は適切な位置で圧着されているか
といった項目を作業者自身でセルフチェックし、問題なければ圧着完了です。
圧着不良例
圧着で大切なのは、作業者自身が圧着の仕上がりを見て良否判定できることです。
良否判断できないと、良かれと思った圧着が全てNGとなってやり直すはめになります。
代表的な丸形圧着端子の圧着不良例4パターンを以下に示します。
①は被覆の剥きが長すぎたり、圧着工具へ電線の挿入が浅いと被覆圧着部分に心線が見えてしまいます。
②は被覆の剥きが短い、もしくは端子内で電線が折れ曲がっている可能性があり、出代から心線(ブラシ)が確認できません。
③は被覆の剥きが長すぎ、もしくは電線の挿入が深く心線圧着部分に被覆が噛みこんでいる可能性があり、心線の出代(ブラシ)が異常に長くなっています。
④は圧着工具に対し端子を逆向きにセットし圧着しているため、よく見るとかしめ形状が反対になっていて被覆部分が潰れて心線部分の圧着強度が弱くなります。
これらの圧着不良は断線や抜け、最悪接続部が発熱し火花が出るケースもあるため、写真のような形状の丸形端子を発見したら、NG判定をしてもう一度やり直しましょう。
まとめ
圧着端子の中でも使用頻度の高い絶縁被覆付き丸型端子のかしめ方について解説しました。
かしめる前に使い方や注意点をきちんと知っておかないと、後々になって電気トラブルの原因をつくってしまうかもしれません。
電線サイズに適した圧着端子を選定し、今回紹介した手順に従って正確に丸端子圧着を行えば、長期間安全に使える電気接続を作成できます。
また、何をやったら圧着不良になるのか知ることも大切です。
圧着も種類がたくさんあり覚えるのがなかなか大変ですが、初めて行う作業に関してはざっくりでもかまいませんので、事前に調べてからとりかかりましょう。
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