【できる生産管理】製造業における標準工数の求め方

標準工数の設定 ノウハウ

日常業務やプロジェクトの一環で標準工数の設定を求められた経験はありませんか?

標準時間の求め方が分からずに、なんとなく「えいやっ!」と感覚的に決めてしまうと、各々でばらつきが生じて、本当に信用してよい数字なのか疑ってしまいますよね。

標準時間は工数管理における基準値になるため、考え方や求め方に対し、メンバー内で共通認識が必要です。

私は若手時代に自分の職場の標準工数を一から見直すことで、製造現場の管理業務をいろいろ任せられるようになりました。

そこで今回は製造業における標準工数の求め方について、わかりやすく解説していきます。

本記事を読めば、適切な標準時間の設定が可能になり、現場からの不満を解消できたり、正しい原価管理にも役立つので、生産管理業務に関わる工場勤務の方はぜひチェックしておきましょう。

標準工数と標準時間の違い

製造業において「標準工数」と「標準時間」の意味合いはほぼ同じであるため、どちらの言葉でも通じます。

厳密に違いを言えば、標準工数の中に標準時間があるイメージですかね。

作業時間は言葉の通り、標準レベルの作業者が特定作業を完成させる「時間」であり、単位は秒とか分で表します。

標準工数とは標準時間に作業する人数や完成数量を乗じて「作業量」を数値化したものであり、単位は人時とか人日を使う定義になっていますが、実際の工場では時間同様に扱うケースがほとんどです。

標準時間の要素

標準時間を設定するとき、

「標準時間ってどこからどこまでの作業時間を言うの?」

「段取り時間は標準時間に入れてもOK?」

といった質問をよく聞きます。

標準時間は設定する時にいくつかの要素に分けれられますが、その詳細は業界や企業によって様々です。

一般的な標準時間の分類例を以下のように示すので参考にしてください。

工数種別

大まかな構成は、作業に必要な「作業時間」と業務遂行に必要な「余裕時間」に分類され、

標準時間=作業時間+余裕時間

という関係が成り立ちますよ。

作業時間と余裕時間ですが、どんな使い分けされるのかを確認していきましょう。

作業時間

標準時間における作業時間とは、実際に作業している時間です。

「いや、そのまんまじゃん」と思うかもしれませんが、もう少し詳しく言うと、作業する中で必要不可欠な動きを指す時間となります。

そのような理論上必要不可欠な作業時間の中にも、段取り時間と正味時間に分かれますよ。

では、段取り時間と正味時間についてそれぞれ解説していきますね。

段取り時間

段取り時間とは作業の準備や後始末に必要な時間です。

作業マニュアルに沿って業務を始めようとしても、実際すぐには開始できませんよね。

例えば、

  • 部品を集めて袋から開梱する
  • 配線類などを必要長さにカットしておく
  • 作業台に使用する工具を揃える

等が段取り工数に当てはまります。

1つの作業が完了し、次ロットへ切り替えるまでの時間を測定すれば、段取り時間が求めれるでしょう。

正味時間

正味時間とは作業手順に基づいた時間です。

作業手順書などのマニュアルにおいて、作業者一人が手順1から順に手を動かしてものが完成するまでの時間を測定していきます。

正味時間の中でも更に細かく主体作業時間と付随作業時間に分類さますが、これらが分類できると後々ムダどりとか作業分析に役立ちます。

主体作業時間

主体作業時間とは製品を完成させるために形状や寸法を変更させる作業時間を指します。

主体作業時間は標準時間の中で最も付加価値(利益)を生み出す作業時間となりますよ。

例えば

  • ドリルで穴をあけるなどの加工時間
  • ネジを締めるなどの組立時間

が該当します。

極論言えば、この主体作業以外の時間は無駄な時間と言える訳です。

付随作業時間

「主体作業以外の時間は無駄です」とか言われても、実際全てなくすなんてのは無理ゲーです。

  • 部品を加工機にセットする
  • 機械を動かす前の安全確認
  • 製造時に発生したキリコや汚れの除去

といった作業はものをつくるためにどうしても必要となってきますよね。

このように、付加価値は発生しないが現在の作業環境では都度避けられない時間を付随作業時間と言います。

「主体作業よりも付随作業の時間をなるべく減らしたいよね」

みたいなイメージをもっておくと良いでしょう。

余裕時間

ここまで作業時間の中身を解説してきましたが、次に余裕時間の分類について解説しますよ。

余裕時間は、作業を遂行するにあたり作業者(人)や周囲環境によって避けられない時間です。

毎回、理論上の作業時間のみで稼働できるかと言われても現実は難しいですからね。

人間だもの。

だったら予め標準時間の中にある程度の余裕時間を見込んでおいた方がより現実的な数字となります。

では、どんな時間帯を余裕時間として見込んでおけば良いのか見ていきましょう。

作業余裕時間

作業余裕時間とは不規則もしくは偶発的な現象の処置により遅れを考慮した時間です。

  • 摩耗やサイズ変更による工具の交換
  • 部品が梱包形態がいつもより厚く開梱に時間かかる
  • 物を探す

などが含まれます。

職場余裕時間

職場余裕時間とは直接作業に関係しない時間です。

  • ちょっとした立ち話
  • 材料待ち
  • あいさつ

など、職場の管理体制による遅れを指します。

用途余裕時間

用途余裕時間は作業者の生理的現象に対する時間です。

例えば

  • トイレ
  • 汗を拭く
  • 水分補給

が該当します。

昔は喫煙者のたばこ時間も含んでいましたが、今は勤務時間内の喫煙を認める工場も少ないでしょう。

疲労時間

休憩など、勤務中の作業者の疲労回復に必要な遅れを指します

標準工数より遅れる理由の一つに、作業者の疲労時間が考慮されていないケースも考えられますね。

最初は良くても後半手の動きや思考が鈍くなっていくため、これらを含めて標準時間を補正する必要がありますよ。

作業時間の設定方法

「作業時間ってみんなどうやって決めてるの?」

「いろんな設定方法あるけどどれが一番良いの?」

トヨタ生産方式に詳しい人の話とかIE手法に関する参考書とか見ても、やり方がそれぞれ異なるので、いまいち何が正しい設定方法なのか悩んでしまいますよね。

標準工数の中でも特に作業時間の設定方法はいくつか存在し、作業の規模や職場環境で何が適切か変わります。

ここからは、製造業でよく聞く作業時間の設定方法に関してメリット・デメリットを挙げつつ紹介していきますよ。

複数の手法を挙げていくのでどれが一番自分の職場に適した方法なのか判断していきましょう。

ストップウォッチ法

ストップウォッチ法(直接観測法)とは、ビデオカメラやストップウォッチなどで直接時間を観測する方法です。

標準作業に取り組む人を作業要素ごとに観察して時間を計測していきます。

ビデオカメラで撮影できれば、実際の動きを見返しができるため、工数設定以外にも改善の立案や考察がしやすいでしょう。

また、固定カメラが使えれば、リアルタイムで現場に立ち会う必要がないので、製造現場の都合を伺う必要はありません。

おそらく、ほとんどの製造現場で取り入れやすい設定方法です。

一方で、観測中に作業者が緊張してしまったり、張りきりすぎたりして、いつものペースで作業できず、普段と異なる時間がでてしまうケースがありますよ。

計測する作業者が熟練者であると、当然ペースがはやくなるので、レイティングという補正をかけてやる必要もあるのですが、これもまた人によって独自の見解があるのでちょっと面倒くさいです。

ワークサンプリング法

ワークサンプリング法(瞬間観測法)とは適当に決めた時刻に現場を見て、それぞれ何を行っているか状況を観測し、統計的に稼働状況を集計する方法です。

標準時間の設定方法としてなぜかよく紹介されますが、どちらかとえば現場の稼働状況を調べるときに使う方法なので、ワークサンプリング法だけで各工程における標準時間は計算できません。

100~200回程度製造現場に行って従業員や機械の状況をチラ見すれば1日の作業時間と余裕時間のそれぞれの割合は手っ取り早く計算できます。

ただし、ストップウォッチ法のように工程ごとの時間を計測していないので、「この製品が1式あたり何分かかるか時間を調べたい」という時には使えませんね。

標準時間の設定と稼働分析はそもそも目的が違うので注意しましょう。

PTS法

人の基本動作をあらかじめ分類し、各分類の単位時間を決めて合計すれば、一連の作業の標準時間が求まるという仕組みです。

例えば、一連の作業が以下のような場合…

  • 「見る」は5秒
  • 「探す」は7秒
  • 「物をつかむ」は9秒

みたいな感じで細かい動作の標準時間を決めておけば、5秒+7秒+9秒=計21秒で標準時間が決まりますよね。

ちなみに微動作レベルにまで作業を分解する際に、すでに昔のお偉いさんが決めたであろう18種類の動作(サーブリッグ分析)を参考にする人が多いです。

PTS法はストップウォッチ法などの直接観測法とは違い、間接的に標準時間を設定できるため、現場作業のスタート前から工数の見積もりが可能となるメリットがあります。

一方でPTS法のデメリットは、ある程度工具の置き場所や作業者の立ち位置など型にはまった作業環境でなければ、せっかく決めてあった単位作業時間にばらつきが生じてしまい、工数見積もりの精度が悪くなる点でしょう。

実績資料法

実績資料法とは、これまでに蓄積した作業実績資料から標準時間を設定する方法です。

例えば、やったことない新規作業であっても、過去の類似作業で標準時間が設定済みのものがあれば、少しでも参考にできますよね。

また、日ごろ作業者が記入している作業日報などの工数実績データから平均値を計算して、標準工数を決めることも可能です。

こちらも直接観測法と違い、手元に蓄積されたデータから算出できるため標準時間を設定する側としてはだいぶラフに設定できるのがうれいしいポイント。

ただし、自分たちが計測する訳でないため、参考にするデータが有効で信頼性あるかどうかの見極めが必要となります。

実績資料法は正確性の維持が難しいため、一部の方々から邪道視されるでしょう。

個人的に製造現場に近い立場である人が使う分には、実績資料法を採用するのは全然アリだと思いますね。

余裕時間の設定方法

余裕時間の設定は、正味作業時間に余裕率を乗じて計算していきますが、一般的に共通して目安となる数値があるため、実際に作業現場などを観察せずとも以下のように決めてしまう人がほとんどです。

  • 作業余裕時間 3~5%
  • 職場余裕時間 2~4%
  • 用途余裕時間 2~3%
  • 疲労時間 7%程度

各余裕時間ごとに細かく設定されていますが、合計して10~20%以内(平均15%)と設定しておくのが製造業においてベターな基準値となっていますよ。

10%未満や20%以上になってしまう場合、管理者は理由を考えておきましょう。

場合によっては、改善すべきて点や工数の見直しが必要となります。

工数の算出

標準時間と余裕率の設定方法に関して一部解説していきました。

ここからは実際に計った時間を計算して工数を算出していきますよ。

標準時間を決めて生産管理でどのように工数管理しているかを一通りやってみましょう。

標準時間の求め方

例としてあなたの工場で作っている製品Aの標準工数を調べるとしましょう。

まず、そこそこ現場作業に慣れた若手が製品Aを1個つくる作業時間をストップウォッチなどで計測した結果が以下の場合、

  • 正味時間 135分
  • 作業余裕時間 4%
  • 職場余裕時間 3%
  • 用途余裕時間 2%
  • 疲労余裕時間 7%

余裕率=4+3+2+7=16%

余裕時間=正味時間×余裕率=135(分)×0.16=21.6(分)

標準時間=正味時間+余裕時間=135(分)+21.6(分)=156.6(分)

単位を分から時間に変換する場合、

156.6(分)÷60=2.61(時間)

つまり作業者1人が製品Aを1個つくるに2.61時間(または2.61人時)かかる

といった感じで標準工数が算出できます。

標準工数の応用

「製品Aを5日後に100個生産してくれ!」

と営業から急な依頼があったら場合、生産管理の立場でいきなり断ってしまうと怒られてしまうので、まず5日後に完成させるために必要な作業者の人数を考える必要があります。

ここで先ほど設定した標準時間を元に工数計算していけば、必要な作業者の人数を算出できるという訳です。

製品Aを100台作る工数=2.61(時間)×100(個)=261(時間)

例えば、1日8時間勤務の職場であった場合、

5日間一人あたりの勤務時間=8(時間)×5(日)=40(時間)

必要な人数=261(時間)÷40(時間)≒6.52(人)

つまり、製品Aを5日間で100個生産するためには作業者が平均7人必要だということが計算で求めれらます。

工数管理する人はこんな感じで必要期間や必要人数などの見積もりを行いますよ。

まとめ

標準時間の内訳は大きく分けて2つ、作業時間と余裕時間分けられます。

正味作業時間を調べる方法は、直接観測法やPTS法など複数あり、それぞれメリットとデメリットがあるので、自分の職場や都合に合わせた方法でまずは進めていきましょう。

※今回紹介した手法の一つワークサンプリング法は、稼働率を調べる手法であるため標準時間の設定はできません。

工数管理は製造業のみならず、様々な分野における組織のリーダーが必ず通る道です。

標準時間の設定は、企業にとって非常に重要なデータとなりますので、見積もり精度を高めるためにもより正しく実態に近い標準工数を求めてくださいね。

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